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正倉院展と乞巧奠(きっこうてん)

正倉院展(第67回)の目玉のひとつとなった乞巧奠(きっこうてん)

  2015年秋開催の第67回正倉院展では、すでに奈良時代の聖武天皇の時代に天皇家でも執り行われていた七夕行事である「乞巧奠(きっこうてん)」の儀式に使用された9点が出陳されていた。内訳は、銀針2本、銅針1本、鉄針2本(うち1本には赤色縷断片つき)、緑麻紙針裏、それぞれ巻いた赤色縷(赤い縫い糸)、白色縷、黄色縷という構成であった。収蔵倉はいずれも正倉院南倉である。
  今回の展示で、奈良時代の乞巧奠(きっこうてん)においては、織布が広く普及しており、糸と針が儀式で供えられていた点が強調されているようであった。

  以前の2007年8月22日付の当ブログで「冷泉家と乞巧奠(きっこうてん)」という記事を載せ「乞巧奠(きっこうてん)儀式で重視されるカジノキ」についての考察を行った。
  その後の目覚ましい進展はなく、織物文化が普及した中で、「南方圏で神聖な白い樹皮布Beaten Barkの原料として世界に伝播したカジノキの葉っぱが、なぜ日本の乞巧奠で最も重要な場面で使われるのか?」「江戸時代になっても、なぜ七夕の飾りに大きなカジノキの葉っぱが根強く用いられるのか?」等などの謎は解けていない。
  また、白妙、幣、木綿(ゆふ)、あるいは日本の正月飾りやメキシコなどに見られるシャーマンの「切り紙」の古形は、南方のタパのような叩きのばした樹皮紙/布Beaten Barkではなかったのか?という問いと共に未解決である。
  
  一方、カジノキ自体についての関心は内外で高まってきた。
オーストロネシア語族とカジノキ(Paper Mulberry)の伝播の関係性に着目し、太平洋をはさんだ世界各地から採集したカジノキのDNAを比較した挑戦的な本として、例えば以下の学術書がある。
書名:A holistic picture of Austronesian migrations revealed by phylogeography of Pacific paper mulberry.共著者:Chi-Shan Chang, Hsiao-Lei Liu, Ximena Moncada, Andrea Seelenfreund, Daniela Seelenfreund, and Kuo-Fang Chung. PNAS. published 5 October 2015
  国内各地でも、大阪四天王寺、奈良国立博物館、諏訪大社などカジノキを植える場所が増えている。福井県越前においては、カジノキを植栽し、人間国宝の岩野市兵衛氏がカジノキを原料とする和紙を漉く活動も盛んになってきた。

  世界の人々を今も惹きつけるカジノキ。不思議な木である。

by PHILIA-kyoto | 2015-11-04 15:13 | 乞巧奠とカジノキ  

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