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混迷する「台湾原住民」研究と文化活動part 2

輔仁大学織品服装学部展示コーナーにて

  輔仁大学Fu Jen Catholic Universityは、中国本土の共産主義化で台湾に移ってきた長い歴史を有する大学だ。特に、台湾原住民の織品、服装品の収集や研究に熱心に取り組んできた。その象徴的な「原住民の衣装」を紹介する展示コーナーに、代表的な台湾原住民のコスチュームを着せた人形が6体展示されており見せてもらったが、大きなショックだった。
  6体すべてが、シャンデリアの装飾のような揺れ動く金属の豪華な装身具を頭に載せ、金満ぶりを示すかのような豪華な衣装なのだ。大陸の少数民族の豪華衣装のようだ。
  台湾は、石器時代からの基層の上に南島文化が発展し、その後、大陸からの文化を受容したミックス・カルチャーの宝庫だと考える。

  南島文化は、人類で初めて「海」に漕ぎだし、世界に拡散していった「海の文化」だということを忘れてはならないだろう。

  台湾を空から見ると、しばしば荒波が逆巻く海域である。常に小さなカヌーは海の荒波に翻弄され、波にのまれて海に沈み、また方向を失い水や食料がなくなって死ぬ危険は非常に高かった。そのような恐怖を克服し、海に漕ぎだしていく勇気と技術は、どのように誕生し、形成されたのだろう?限られた空間しかない丸木舟(カヌー)の中に持ちこめる品々、身につける衣装は非常に限られていた。このような極限状態の中で生まれ、発展してきた「南島文化」の精神性、衣装やアクセサリー。
  今も、スラウェシのシャーマン(呪術師)が、必ず呪術で使う樹皮布Bark cloth(必ず白いカジノキ製)は南島文化圏全域で見られ、ただの衣服以上の用途が残っているのは、「海での恐怖を克服させるスピリット」を有していると信じていたからではなかろうか。

  台湾原住民の衣服、装飾品の歴史を考える上で、基層にある「南島文化Austronesian culture」とその後影響を受けてきた「大陸文化」の、それぞれの痕跡、融合の姿を注意深く調査研究していかなければならないのではなかろうか。

  台湾原住民の調査研究は日本時代の成果に大きく依拠してきたが、近年発展してきたオーストロネシア語族の研究成果を加味した、新たな調査研究への転換期にあるように思える。台湾がどのような将来の政治的な選択を行うとしても、暮らしの足元に存在する基層文化、痕跡を排除する事は不自然だろう。
 

by PHILIA-kyoto | 2010-11-07 13:45 | オーストロネシアン研究  

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