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スラウェシ慕情

中部スラウェシは雨季

  2011年のインドネシアからの便りは、「各地で雨がよく降っている」というものが多い。中部スラウェシも雨季のこの時期には、道路は各所で土砂崩れで寸断され、通行が危険となり、車での往来は激減する。例年雨季の終わる3月頃まで旅行者は現地入りを敬遠する。
  今年は、どのような状況となるのだろうか?

  新たな年を迎え、このブロッグをここまで続けてこられた事を感謝するとともに、関係者は老齢化で“活力”がなくなり、情報発信がだんだん難しくなっていくことを想う。

  樹皮紙/樹皮布を調べていく過程で出逢った「オーストロネシア語族Austronesian」。世界中に海を伝って拡散していった彼らの精神性、創造性には驚かされることが多々あり、その埋もれた実像を少しでも探求していきたいと思うが、現実は氷山の隅っこを垣間見たに過ぎない。

  樹皮紙/樹皮布は新石器時代からの石器ビーターstone beaterが各地に残り、原料となったカジノキBroussonetia papyriferaのDNAを解析した伝播ルート解明が可能で、民族学・言語学的痕跡など複合的な調査研究ができる貴重な題材であり、オーストロネシア語族研究のキーワードのひとつとなる。
  現状では、源流にあると考えられる中国大陸南部から台湾地域、そして拡散の道筋となった東南アジア、太平洋の島しょう地域とアフリカ大陸、そして新大陸を横断的に視野においた樹皮紙/樹皮布の総合的な調査研究はこれまでなく、今後の調査研究に委ねられる。

  今のところ、世界で唯一「生きた化石」のような痕跡が多々見つかっている中部スラウェシ地域からの成果は、新大陸との関連性を考察する上で魅力的に思える。
  
  樹皮紙/樹皮布に透かし模様water-markを加工する技法を教えてくれたバダの老婆も93歳となり、中部スラウェシにも押し寄せ始めた近代化の大波とも関係し、様々な地域において過去を知るための「時間との競争」が繰り広げられていることを思う。

  ひとりでも多くの人が「時間との競争」に関心をもち、限られた経済的、人的資源が有効に投入され用いられていくことを願っている。

  実に多くの懸案・課題が横たわっているが、中部スラウェシ・ブリリBulili村の子供達のように、未来に希望を灯し、技術や伝承を継承していく可能性のある人材を発掘し、支援を続けられればと夢見る。

by PHILIA-kyoto | 2011-01-05 11:38 | オーストロネシアン研究  

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