「アジアの紙の道」 ②

2.澆紙法と抄紙法
 古代以来の製紙技法は、欧米の近年の区分及び久米康生氏の著述を参考にし、大きく分けて「澆紙法(潑入法)」と「抄紙法(撈紙法)」に区分すると説明しやすいと思われる。
 まず澆紙法(pour method)とは、枠に固定した布の漉き簾を、水を張った穴や水槽の上に浮かせて、水に分散させた繊維を上から注いで手などで繊維を分散させ、枠に固定した布の漉き簾を水平に持ち上げ、水を切ってから枠に固定した漉き簾のまま屋外で、斜めに立てて乾燥をさせる方法である。そのため、枠に固定した漉き簾の枚数分しか製紙ができない生産性の低い方法となる。その分布は中国、雲南、タイ、ネパール、チベット、ブータン、ベトナムなどの地域に見られるとされる。 
 次に、抄紙法(dip method)とは、現代の和紙の漉き方のように、漉き舟に靭皮など原料繊維を水に分散させて、簾桁で漉き上げて、薄い紙のシートに仕上げていく方法である。漉き上げた湿紙は漉き簾から紙床に重ねていき、乾燥工程に移れることから生産効率がよく、世界各地の紙漉き場ではこの方法が主流となっている。
 和紙研究書などで区分されてきた「溜め漉き」「流し漉き」の技法は共に「抄紙法」に分類される。また、ネリを用いた流し漉きは日本独特のものと寿岳文章氏らにより正倉院文書の実地調査で得た知見から言われてきたが、実際にはアジア各地の古来からの漉き場において、ネリ(紙薬)を用いる手漉き法が実見されている。久米康生著『和紙の源流』(2004年)にはアジア各地の具体的な事例が紹介されており、学ぶことが多い。

 今のところ詳細な世界各地の古来からの製紙技法の調査観察報告が少なく流動的ではあるが、「拍浪技術」や最初に流し漉き様に汲み流し、其の後捨て水を行わないで静止させ溜め漉き様に行う「流し・溜め漉き法」も見られ、様々なバリエーションがありそうであり、今後の調査研究が待たれる。日本の文書料紙研究も日本の枠内だけでなく南のペーパー・ロードの紙の特徴や技術変遷も視野に入れ検証していくことが大切だと思っている。

 なお、アジア各地の古来からの製紙技法については、昔の技法がすでに途絶えていたり、日本などの技術支援によって技法が大きく変質してしまっている事情もあり、注意深くルーツをたどって総合的に調査研究をしていくことが求められる。
 今の段階では、原初的な製紙技法と考えられる澆紙法から抄紙法に移行発展したのかどうかは不明で、別々に生まれ発展してきた可能性も考えられている。
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by PHILIA-kyoto | 2007-09-03 00:21 | アジアの紙の道  

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