カテゴリ:マヤ・アステカの樹皮紙( 6 )

 

スペインの征服と樹皮紙文化の破壊

和紙のように美しいアマテ樹皮紙はスペイン征服により途絶えた

  スペイン人宣教師と征服者たちは、ある緊張期間を経て徹底的な邪教排除に乗り出した。その破壊行為の中には、各所の図書館やアーカイブズに匹敵した知的収蔵庫の徹底的な破壊と焚書も含まれ、邪教に関わるアマテ樹皮紙の製作も厳しく禁じられたと思われる。
  しかし、一般庶民の間では、まじないや儀式用に細々とアマテ樹皮紙が引き続き製作されていたことであろう。
  その痕跡として、現在もㇷ゚エブラ州で樹皮紙アマテを作る際に用いられている道具(石器ビータ―)は、スペイン征服前からずっと使用されているものが相当数あると推測している。

  では、なぜ現在は「マヤ時代のような、品質の良いアマテ樹皮紙が作られなくなったのか?」

  これ以降の説明は仮説になるが、
  1.スペイン統治下でもアマテ樹皮紙は、庶民の呪術・儀式用などに細々と制作されていたが、征服者が来る前のように、村々に音楽のように音が響く(メキシコと同じ形態の石器ビータ―を使うインドネシアの例では、ビータ―で樹皮を叩きのばす音は、はるか数キロ離れた場所にまでコダマし響いた)ことは、スペイン統治下では、非常に危険なことであったために、「叩く音が響かない技法」に変化していき、現在に伝わる”手の平に握って殴打する技法”になったように推測している。インドネシアでの樹皮紙制作では、ラタンなどの取っ手を石器に固定し、強く打ちたたく技法に比べ、現在のアマテ製法は、おそらく樹皮を砕き叩きのばすエネルギーが1/10程度に極めて減っているのであろう。この叩くエネルギーの違いは、仕上がりの品質に大きく影響し、マヤ・アステカ期のような薄手で良質なアマテ樹皮紙は作られなくなった、と考える。
   2.現在のアマテ制作工房では、アルカリの化学薬品を用いて原料の煮熟を行っているが、マヤ・アステカ期には「発酵製錬Retting」を使っていたと推測。今もインドネシアでは、樹皮布/樹皮紙の原料繊維を柔らかくするために「発酵製錬」を行っている。生の荒く叩きのばした白皮を畳んでバナナの葉で包み、涼しい屋根裏などに2-3日放置しておき、その後納豆のように発酵しベトベトした白皮を流水で洗って、その後叩きのばしていく工程に移っている。この発酵製錬では、現在のアマテの化学薬品による煮熟に比べて繊維が長く丈夫であったと考えられる。
  なお、アマテ樹皮紙が、マヤ・アステカ期のような良質なレベルに復活できない別の原因は、現存するアマテCODEXとSan Pablitoに残る「スペイン征服後の技法」の固定観念から脱せない人類学者や考古学者の問題に帰するのだろう。
  
  いつか、日本の和紙のような美しいアマテ樹皮紙が、復活する日を期待し、待ちたい。

*この項につき、2015.7.31一部加除修正を加えた。
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by PHILIA-kyoto | 2015-06-26 22:11 | マヤ・アステカの樹皮紙  

マヤ絵文字の刻まれた石器ビータが出現!!

マヤ絵文字の刻まれた石器ビータと対面

  成田からカナダ経由のフライトで19時間程かかって、厚い雲かスモッグに包まれた高原都市メキシコ・シティに降り立った。

   AD600-800年頃のマヤMaya古典期に使われていた、とされる世界で初めての報告例となるマヤ絵文字の刻まれた石器ビータを手に取って見るのが旅の目的だった。

   2012年5月30日付のブロッグ記事で、中国南部で4000年前頃とされるユニークな模様の刻まれた石器ビータが出土した事を画像入りで紹介したことがある。
   おそらく、封印された古代社会で樹皮紙/樹皮布に、お札の偽造防止用の透かし模様のような「光にかざさないと模様が見えない、透かし模様Water-markという発想と技術が、エジプトのパピルス全盛時期と同じ頃に、樹皮紙の痕跡が残る地域ですでに存在していた」可能性を後押しする物証がボツボツ気づかれ始めたのだろう。

   これまでにインドネシア、中国などで見つかっているユニークな模様のある石器ビータの図柄は、いずれも幾何学的模様であった。
   ところが、今回メキシコで出土した石器ビータ<画像参照>f0148999_19293360.jpgは、マヤ絵文字であり、いつか石器の両面に刻まれた絵文字の意味が解読されていくと、当時の“透かしwater-mark”加工用に模様が刻まれた石器ビータの使用目的などが解明されていく糸口になるかもしれない。  

   透かし模様を加工できるビータの報告事例は、世界全体でもまだ少ない。ことに、マヤ・アステカ期の膨大な樹皮紙の本、文書は邪教の根源として、カトリック神父らの指示で徹底的に帝国一帯で集められ広場で燃やされた。樹皮紙を製作する道具や技術も邪教のものとして厳格に廃絶されたことから、今に残る物証は非常に限られてしまった。

   とはいえ、徐々に世界各地の樹皮紙原料樹皮のDNA分析も広がる様相で、様々な観点から「樹皮紙の起源と伝播」、その使用実態についての調査研究成果が増えていくことを期待したい。


樹皮紙のメキシコ現地調査は命懸け

   感動的だったマヤ絵文字の刻まれた石器ビータと出会った翌々日に、思わぬ災難に見舞われた。

   首都メキシコ・シティから1時間ほどの高速道路上(ちょうどテオティワカン遺跡付近)で、乗っていた高速バスが武装3人組に襲われ、靴下まで脱がせて徹底的に金目のものを強奪していった。パソコン、バックアップ用HDD、携帯電話、カメラ、腕時計、財布、旅行ザックなどなど。ポケットに残っていた小さなSDメモリー・カードも3回目の身体検査で見つかり奪っていった。

   高速バス乗車時に、金属探知機で一人ひとりの所持品とボディ・チェックをし、個々の顔写真を撮影していたにも関わらず…、であった。あちこちが形骸化し、ザルなのだろう。威嚇のため、3発ほどピストルを発射した時には恐怖が走った。ネズミ男のようにフードを被った人が見えると、恐怖がよみがえる。バスもしばらくは乗れなかった。
   バス運転手によると、メキシコ各地でかなりの件数で武装強盗が出没しているとのこと。首都近郊や昼間も、危険なのは困ったものだ。 汚職や疲弊した困窮層が増えているのも、治安を悪化させる要因という。

   多くのここ数年分の2度と撮影できないフィールド調査画像については、保存バックアップ用HDDが一緒に奪われるという失態をしてしまい、ショックであり悔やまれた。

f0148999_11455876.jpg   強盗に襲われる前には、スペイン人征服者の目を逃れ、絶滅を免れた樹皮紙生産地サン・パブリトSan Pablito村を訪ねた。サン・パブリト村では、樹皮紙の基本製造技術は大きく変わってしまったが、部分的には数百年以上の歴史を引き継いでいるかもしれない。
Moraという白い樹皮の採取できる樹木も、数百年使われてきたかもしれない。そんなロマンのあるMoraの白い樹皮紙を使い、素晴らしい切り紙細工技術で仕上げた作品も、ザックに入っていて奪われてしまい惜しまれた。  <参照画像は2009年3月収集のAmate切紙細工>
   命が助かったことなのだから、再起は可能かもしれないが…。
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by PHILIA-kyoto | 2013-02-10 19:30 | マヤ・アステカの樹皮紙  

クイクイルコ遺跡

メキシコ・シティの現存最古の遺跡

  紀元前6世紀から2世紀に最盛期を迎えたクイクイルコ(Cuicuilco)遺跡。オリンピック会場に近い円形の遺跡だ。f0148999_743345.jpg メキシコ市内で現存する最古の時期の遺跡とされる。f0148999_885592.jpg
  


 





    この遺跡からも樹皮紙Beaten Bark Paperを作る画像のようなラケット型の石器ビーターが出土していた。 インドネシア・スラウェシのラケット型石器ビーターとそっくりである。この「そっくり」という表現であるが、先日2009年9月4日付けの「日経新聞」朝刊文化面にインドネシア各地の28個のビーター写真が掲載されていたが、同じ形というのは意外と珍しく、そっくりな形には同じ文化的影響があることを示す場合が多い。

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  この遺跡を発掘指揮していたメキシコ人考古学者に案内され、歩いて10分ほどのクイクイルコ・ショッピング・モールに出かけた。ここには、メキシコの由緒ある製紙会社Fabrica de Papel "PENA POBRE"がかってあり、当時使っていた製紙機械や道具類がカラフルに生まれ変わり、うまく配置されて「産業歴史遺産」として息づいていた。無用そうに見える高い煙突もカラフルにペイントされ、ショッピング・モールのシンボルになっている。随所に過去の「産業遺構」が組み込まれた、実に、面白い「産業遺産」の生かし方だ。

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  歩きつかれて、地下鉄でINAHの修復センターのあるGeneral Arayaまで戻り、メキシコ各地で楽しめるミルク・コーヒーを、ウェーターのパフォーマンスと共にたっぷり時間をかけて味わった。

  メキシコは、食と時間を愉しむ文化は豊かだと思う。

  よく通ったMuseo Franz Mayerのカフェも落ち着けて豊かな気分にさせてくれる場所だ。f0148999_8315975.jpg
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by PHILIA-kyoto | 2009-09-10 08:46 | マヤ・アステカの樹皮紙  

メキシコ

筆と樹皮紙

  メキシコとスラウェシから相次いで発見された「透かし模様を加工する石器ビーター」から明らかになってきた点は、これまで研究者の間でプリミティブと考えられてきた古代の樹皮紙Beaten Bark Paperの素材品質が「透かし模様Water-mark」を加工できるほどに高品質の技術力をすでに有していたことだ。

  Maya文明の中での樹皮紙の起源や素材品質を考える上で大事な痕跡として、「筆」がある。
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  ここでは、マヤ学者Michael D. Coeの著書The Mayaで紹介された3点の画像を掲載しておく。f0148999_8212091.jpg何と、当時マヤで使われていた筆Brush penは東洋で使われている筆と同じ形だ。(近世のインドネシアでは、樹皮紙に硬い羽や木のペンが使われたとされる。)f0148999_825159.jpg
 上側が、8世紀のものでウサギ神がジャガーの皮の表紙のついた折畳みコデックス本に描画している場面<注1.>。下側左がコパン遺跡で発見された猿人間の書記が右手に筆と左手に貝のインク壷を持つ像。下側右が後古典期のティカル遺跡で発見された筆を持つ手。

  これまでの数年間の調査で、樹皮紙を作る石器ビーターや透かし模様を加工する技法、そして筆などを観察していると、どうして太平洋の大海原を隔てた東洋とメソ・アメリカにこのような「酷似した品々」が存在しているのか、不思議な気持ちになる。今後の更なる調査研究の行く末を楽しみにしたい。

 ※注1.現存最古のものとされる中国・楚の墓から出土した「長沙筆」は竹の軸にウサギの毛で穂を作ってあり、また、中国古代から最良の毛筆の穂先として兎の毛が紫毫(しごう)と呼ばれ尊ばれ文献にも記録されてきたようで、ウサギと筆とは深い関係があった。
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by PHILIA-kyoto | 2009-05-06 08:46 | マヤ・アステカの樹皮紙  

メキシコ

国立人類学博物館館長急逝

  アステカ研究の第一人者で、考古学者でありメキシコ国立人類学博物館館長であったFelipe Solis氏(65歳)が4月23日死去された。前の週には、オバマ大統領を国立人類学博物館で案内する大役を果たしたばかりであった。葬儀は、国立人類学博物館で画像のように行われた。
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  翌日金曜日からは博物館や学校は一斉に閉鎖になってしまい、陽気なメキシコも別世界のようになっているようだ。
  感染者の中でメキシコだけに死者が増大し、末期症状の患者の肺がX線で見ると全体に真っ白になっているとの医療関係者の報告に、「世界一ひどい大気汚染」に何年もさらされている不幸が重なっていないことを願う。豚インフルの一日も早い沈静化を祈るしかない。

館長の死因が「新型豚インフルエンザ」によるものという説もあったが、その後(5月11日)の現地からの情報では、新型インフルエンザでなかったことが判明した。博物館も再開されたという。
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by PHILIA-kyoto | 2009-04-27 18:03 | マヤ・アステカの樹皮紙  

不思議なstone beater

マヤ・アステカ文明の樹皮紙は高度な技法を駆使?

 マヤ・アステカの樹皮紙Beaten Bark Paperについての情報や調査研究は、日本では少ない。そんな中で、徐々にマヤ・アステカ時代の樹皮紙の埋もれた歴史が明らかになっていく。

 偶然、アメリカ人から見せられた600-1500AD頃のものとされる、1個の石のビータ(Stone beater樹皮紙・布を叩いて作る道具)f0148999_1362866.jpgを手にとって裏面を見た途端、衝撃が走った。 普通の形ではないぞ。ハワイのUpena Pupu模様に似た、珍しい彫り模様がある!!
 丁度、先月スラウェシの現地調査で、偶然包みから出された石のビータに珍しい「透かし模様water-mark」加工用の模様を見つけた時と同じ衝撃だった。幻の特殊なビータが目の前に現れた!!

 これまでにアジア各地の石のビータは200個以上見てきたが、マヤ・アステカのビータを実際見たのは数個にとどまる。
 そのため、今後の課題となるが、マヤ・アステカの古代の樹皮紙は、現在観光用に売られているメキシコなどのアマテ樹皮紙とは全く様相を異にするもので、美しい透かし模様water-markなども加工された高度なレベルのものであった可能性が今回の不思議なビータの出現で確信できる。

 さらに、カジノキ以外の樹皮では、透かし模様water-markなどの加工は難しいと考えてきたが、マヤ・アステカの人々は、カジノキ以外の樹皮に「透かし模様が加工可能なアマテ樹種を選ぶ」英知があったようだ。

 現在、Sulawesi, Hawaii, Meso Americaの3箇所で確認されている、樹皮紙・布に透かし模様water-markを加工する技術を追っていく、探求していくことで、古代人の謎の一部が明らかになる兆しがある。

 偶然が開く世界は奥深く、面白い。
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by PHILIA-kyoto | 2008-09-27 13:21 | マヤ・アステカの樹皮紙