カテゴリ:Beaten Bark樹皮紙( 1 )

 

投稿を休んでいた1年をレビュー

インドネシアでのBeaten Bark樹皮紙調査研究の広がりと国際的連携の変化

  これまでの先人らに拠る樹皮布TAPA,Bark-cloth調査研究は、今から250年前にジェームズ・クックが南太平洋で”TAPA"と出逢い、本国に持ち帰ったことから始まるとされるが、面白いことに何十年周期で社会的関心が「高揚」する時期と「低迷」する時期が波のように見られる。現在は、珍しく大きなうねりのような高揚期にあるようだ。

  この一年で、最も印象深いのは、フランスで2017年7月に出版された600頁を越える豪華本『TAPA ~ From Tree Bark To Cloth: An Ancient Art of Oceania, From Southeast to Eastern Polynesia 』(Michel Charleux編 ISBN 978-2-7572-1209-7)のことだ。
  今も多くの南太平洋をフイールドとするTapa研究者は、クックの招来以降、タパはこの地域固有の伝統技術であり文化であると考えているが、本の副題に記された様に、やっとオセアニアのタパの源流は中国南部あたりにあり、東南アジアを経由して伝来されたことに気づき始めた。その裏づけとなるのが、近年調査研究成果が増えてきたオーストロネシア語族Austronesian研究だ。
  源流側で、現時点でのことだが、最も豊かにBeaten Bark樹皮布/樹皮紙の「生きた化石」のようなモノが残っているのが、東南アジアのインドネシアである。

  2つ目の事として、国際交流基金アジアセンターのフェローシップ(助成期間1年)を受け、2017年6月までインドネシア(3週間ほどベトナム)でBeaten bark樹皮紙の調査研究を行っていた坂本勇SAKAMOTO Isamu(Freelance Senior Paper Conservator)の成果がある。これまで、欧米人、インドネシア人による樹皮紙古文書Daluangのテキスト研究は活発に行われてきたが、素材Materialや技法の掘り下げた専門的な調査研究は無く、最初の調査となった。調査対象となったのは、ジャカルタにある国立図書館古文書部門のコレクションと西ジャワおよびソロに残された樹皮紙Daluang文書であった。国立図書館所蔵分が126点、その他が約170点であった。調査は、1点ずつの全頁を携帯型のライトボックスで透過し、紙質・技法・特徴などを観察する方法で、一般的には時間がかなりかかり難しい。この調査で明らかになったショッキングな事は、現行のインドネシアの古文書カタログには、古文書素材の呼称に統一性が無く、国立図書館の例では、樹皮紙Daluangダルアンという呼称は一例も無く、gendhong、teraが主で、数例kulit kayuが使われていた。そして、国立図書館の古文書部門スタッフや古文書学者の多くが、正確に素材の判別が出来ない事実がある事は2重のショックであった。今後、詳細なマテリアルや製法についての調査データや、気になる新石器時代にスラウェシにもたらされたBeaten bark技術や文化と、その後のヒンズー文化の要素が色濃く見られるDaluang技術や文化と、どのような接触や関係性があるのか、続報を期待したい。

  3つ目の特記しておくこととして、クロアチアの2人の若手女性文化人類学徒が2016年に引き続き2017年に危機にあるワヤンベベルWayang Beberの調査を実施し、以下の論文タイトルで発表してくれたこと。なお、ワヤンベベルとは、4mほどの長さの絵巻であるが、古文書と同類の樹皮紙Daluangの上に独特の絵画技法で物語を描き、語り手が1シーンずつ巻き送りながら上演するものだ。その絵巻の素材が、厚さ0.07mm程で、非常に高度で繊細な技法であることから、インドネシアの樹皮紙の中でも最高レベルの文化遺産とされる。現在、インドネシアには2か所にしか現存せず、後世に活きた形で引き継いでいけるよう緊急の保全策が求められている。論文タイトル:REVIVING JAVANESE PICTURE SCROLL THEATRE by Marina Pretković & Tea Škrinjarić

  4つ目は、最初のフランスで出版された豪華本とも脈絡が通じるが、ユネスコの太平洋事務書が域内14ヵ国の共通の無形文化遺産としてTAPAを登録し、その保護に乗り出そうという動きだ。呼びかけは以下のような内容となっている。
I am pleased to inform you that 12 out of 14 Pacific island states are now parties to the Intangible Cultural Heritage Convention (ICH). The remaining countries (Solomon Islands and Niue) are also working towards ratification.
The ICH Convention provides the opportunity for safeguarding skills, knowledge, cultural meanings and social functions related to TAPA making.

  5つ目は、2018年が日本・インドネシア国交60年、またジェームズ・クックの初航海でTapaを持ち帰ってから250年という節目に当たっており、関係する各国でBeaten Bark樹皮布/樹皮紙を扱った調査研究やワークショップ、そして様々な行事が計画され、行われる予定であること。

  1年間の筆不精をお詫びし、時々更新し、フォローアップしていけるよう努力したい。

[PR]

by PHILIA-kyoto | 2018-02-23 14:05 | Beaten Bark樹皮紙